シリーズ3:日本(国)ハイテク産業への改革提言⑥

▮危ぶまれる日本政府系ハイテクファンドのデューデリジェンス『国家財源の無駄遣い』
日本 政府系ファンドの産業革新機構(INCJ)は、第2号投資案件として、小型風力発電機を手掛けるゼファーに10億円を出資すると発表した。

※政府系ファンドの産業革新機構,風力発電のゼファーに10億円を出資
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100510/182430/

※産業革新機構の引受による第三者割当増資実施へ
http://www.zephyreco.co.jp/news/2010/05/06/post_95.html

※産業革新機構が風力発電機メーカーに10億円出資(YouTube映像)
http://www.youtube.com/watch?v=7aClyb2Vd_Y

今回は、当初の予告通りINCJのハイテク投資の是非を実案件を「蓮舫大臣なった気分で事業仕分け」したいと思う。
筆者がハイテクのデューデリジェンスとして、INCJとは違うAGD独自のメソドロジで、第2号投資案件をプロの目から再評価する。
(第3号投資案件として、B4-Flash技術でGENUSION:ジェニュージョン社に26億円投資された。次回は、デューデリジェンス結果を発表する。)

筆者とゼファー社長とは、下記の会合で、昼夜2日間食事をしながら会話をさせて頂いた。
記憶が正しければ、オーディオ企業の赤井電機の最後の経営者でなかったかと思う。

2008年ASIA INNOVATION INITIATIVE
http://www.aii21c.org/program.html

「半導体業界の今後~アジアの業界再編はどう進むか~」
ディスカッション リーダー:
ルド・デファーム 
●IMEC エグゼクティブ・ヴァイス・プレジデント (ベルギー)
ゲイリー・パットン 
●IBM テクノロジーグループ 半導体R&Dセンター ヴァイスプレジデント (米国)
佐藤文昭 
メリルリンチ日本証券 マネージング・ディレクター; 投資銀行部門 副会長(日本)
モデレーター:
●豊崎禎久 
ジェイスター代表取締役社長 (日本)

INCJの出資を受けて、他のベンチャー・キャピタルもゼファーへの追加出資を検討しており、これに追加投資する民間ベンチャー・キャピタルは全て水の泡として消え去ることになる。
(ゼファー社の資本金は、2億6000万円。野村証券、日本アジア投資、三菱UFJキャピタルなどが出資している。)
民間のベンチャー・キャピタルは、アナリスト→キャピタリスト→投資委員会のプロセスを経て投資される。
筆者が、どの立場で居ても、残念ながらゼファー社の追加投資には、GOサインを絶対に出さないだろう。

読者の皆さんに、INCJという組織について簡単に、説明する。
INCJは、経済産業省が中心となって2009年7月に設立した株式会社形態の政府系ファンド(SWF)である。
筆者も、INCJ設立準備前に経済産業省の担当部署に、様々なアドバイス(ビジネスモデル、組織、機能など)をボランティアで行った経緯からこの組織と果たす役割と目的は、十分把握している。
下記のイベントが、アィデア出しのご褒美としての講演であったのだろう?

※大企業とベンチャーとのWIN-WINフォーラム~我が国におけるコーポレートベンチャリンング推進に向けて~
http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/innovation_policy/WIN-WIN.htm

話は戻るが、INCJは、15年間の時限付きSWFの組織である。
日本政府が「財政投融資/特別会計・投資勘定(旧・産業投資特別会計)」から820億円を民間企業約20社が計100億円を出資している。
これらの出資金以外にも同機構の民間金融機関からの借り入れに8000億円までの政府保証も付与されている大型のファンドである。
(ちなみに、中国SWFは、1兆2000億米ドル規模)

※関連記事:9,000億は張子の虎か~(株)産業革新機構への不満高まる
http://www.data-max.co.jp/2010/05/9000_5.html

※SWF関連記事
半導体ウォッチ(5)ドラゴン&イスラムマネーが日本企業を飲み込む日
http://monoist.atmarkit.co.jp/feledev/articles/siliconeswatch/05/siliconeswatch05a.html

小型風力発電は、日本の家庭用風量発電は市場として、ビジネスとして成立しない。
これは、技術論ではない。
そもそも、経済産業省の管轄のINCJが日本国ベンチャー(技術)支援モデルで、小型風力発電を本気で、家庭で普及させようという支援策であれば、太陽光と同様に最適な(補助金)「売電」の仕組みを組み込むべきである。」
風力は 発電に仕組みがなく、2008年に経済産業省幹部に問題提示していた。
現在の政策下での、風力発電の「売電」は、太陽光などとは競争出来ないのである。
自由主義社会に属する国であれば、競争条件も平等が原則である。
また、太陽光発電だけでは十分な創エネにはならないので、国家エコ戦略としての補完技術として 風力+太陽光+蓄電池とのハイブリッド・モジュール・ソリューションを構築する必要がある。
では、小型風力発電の市場は何処にあるのか?
それは、海外(北欧、中国内陸部が適合地域とAGDは考えている)である。
中東は、太陽光発電でもなく、風力発電でもなく、本命は「太陽熱発電」である。

次に、技術論で評価するとゼファー社の小型風力発電は、特許上フィンの形状に特徴があるとされている。
INCJが1つの投資判断として、ゼファー社の特許スコアリングを再検証して見る。
このブログにアップしているゼファー社特許検証は、2008年にAGD独自に実施したものである。








【特許評価=技術知財専門家が特許のみで評価したもの】
・風力発電に関する特許出願は2,560件ある。(2008年8月時点)

・風力発電に関する特許は2003年をピークに減少傾向にある。
・出願件数は三菱重工業が突出して1位、2位のアロイスヴォベン氏(独エネルコン社創業者)は3位以下を引き離している。
・風力発電に関する特許群は、1.回転体、2.構造物・塔及び建設方法、3.発電システムの3つのクラスに分けられる。
(小型風力発電を扱う出願人はクラス2での出願はあまり見られない)
・クラス1(回転体)において、小型(出力0~数kW)風力発電を扱う出願人では、エフジェイシーと鈴木政彦氏(全て共同出願)が突出して高いスコアを持っている。ゼファー社は松下電器産業と同等で2位グループを形成。
・クラス3(発電システム)において、小型風力発電を扱う出願人では、神鋼電機、ゼファーが高いスコアを持っている。
・ゼファー社はクラス1とクラス3の両クラスで小型風力発電メーカーとしては高いスコアを持っている。

では、小型風力発電機としての量産機の実力は、果たしてどうだろうか?
実際のゼファー社の実機評価は、10メートル強風が吹かなければ、水平型のフィンが回らないのである。
10メートルの強風は、気象が低気圧配置か台風が来ないと実現しないもので、毎日、電力は作れないということである。
技術的に客観的に見れば、構造的欠陥であり、致命的ということである。
(日本人がカタログ性能比較で、商品を選ぶ傾向に近い。)
上記のように、見かけの特許が良くても、量産の実機発電性能が出せなければ商品化は出来ないのである。
フィンが水平取り付けのため長期使用における経時劣化で、メンテナンスが必要なのである。
小型風力発電のビジネスターゲットは、家庭用であり、家庭用は基本メンテナンスフリーが基本原則である。
そして、水平フィンは、低周波音と安全性(フィンの素材も関係する)にも問題がある。

小型風力発電は、微風の状態でも発電しなければならない。
これが絶対条件である。

さらに、太陽光発電と比較し、発電コストが高く、太陽光発電が2013年にグリッド・パリティー実現出来るのに対し、風力は201X年(先が見えない)なのである。



以上、再検証してきたが、何故セファー社の10億円の投資がされたのか?
それは、読書の皆さんが頭の中で、経緯と真実を探り出して欲しい。
今、INCJの投資に欠如している視点は、『ハイテク投資したSFW系ファンドは、IPOで最低10倍のリターンをするという国への約束事と市場拡大のための実戦略マーケティングである。』

今回の参議院選挙で1人、民主党で独占的に国民の信任を得た、事業仕分人の蓮舫行革大臣には、正しき日本企業育成と連動した世界で勝てる投資SWFとしてのINCJの大改革を早急に着手して頂きたい。

次回は、第3号投資案件(確定)GENUSION社を取る上げることにする。

▮補足情報➀:『再生可能エネルギーの市場は何処か?答えは、海外』
中央日報の記事によれば、今年に入り、太陽光・風力など再生可能エネルギー分野関連装備の輸出と受注が大きく増えている。

韓国政府の知識経済部によると、再生可能エネルギー分野の輸出企業およそ80社の今年上半期の輸出額は21億45000万ドルという。
これは前年同期の輸出額(10億ドル)の2倍で、昨年1年間の輸出額(20億4000万ドル)を超える水準。
分野別には太陽光発電が前年上半期の8億8000万ドルから今年上半期は18億ドルに、風力は同じ期間2億6000万ドルから3億4500万ドルに増えた。
今後の輸出につながる受注額も大幅に増加した。
今年上半期の再生可能エネルギー受注額は、大型再生可能エネルギー団地を受注したことを受け、前年上半期(12億ドル)の6.8倍にのぼる82億5000万ドルとなった。

風力部門は前年上半期の2億7000万ドルから今年上半期は65億9000万ドルに、太陽光は同じ期間8億7000万ドルから16億5000万ドルに増えた。
再生可能エネルギーの輸出好調は、先進国が政策的にグリーン市場を育成しているのに加え、グローバル景気が回復しているためだ。
太陽光の場合、ドイツなど欧州が太陽光発電所を競争的に設置しているほか、米国・日本・中国なども内需市場を育成し、太陽電池・太陽光モジュールの生産能力を拡充している。
風力の場合、グローバル景気の回復で風力部品の需要が増えていると、知識経済部は分析した。

▮補足情報➁:『中国、エネルギー消費が世界最大とのIEA報告に反論』
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-16354020100720

(~略~)中国国家エネルギー局の周氏は、中国は新エネルギーの利用ペースですでに米国を抜いたと指摘。
中国の水力発電能力は世界最大で、温水システムにおける太陽光利用も世界最大、また発電能力が世界最大の原子力発電所が建設中であるほか、風力発電の開発は世界で最も急速に進んでいると語った。


※関連記事:動き出した「官製ファンド」産業革新機構の大盤振る舞い官民合わせて1兆円を出資http://gendai.ismedia.jp/articles/-/556
改正産業再生法に基づく株式会社として昨年7月設立され、「官民出資の1兆円ファンド」という頼もしい呼び名のある「産業革新機構」が、最近、元気だ。
(~略~)
5月6日、小型風力発電機の専業ベンチャーであるゼファーの第三者割当増資を引き受け、10億円の投資を行うことを決めた。10日には、次世代型フラッシュメモリの開発ベンチャーであるGENUSION(ジェニュージョン)に26億円の融資枠を設定、当面、16億円の投資を行うことを決めた。
(~略~)
筆者(伊藤 博敏氏)は、初案件が決まる直前の3月20日に発売された会員制月刊誌の『FACTA』(4月号)に、1件の実績もない「官製ファンド」の産業再生機構という存在そのものに疑義を呈し、「事業仕分けの対象にしたらどうか」と、枝野幸男行政刷新相に呼びかけた。
(~略~)「遅れてはならじ」と、経済産業省が仕掛けたのが、経営難に陥った企業の再生支援を行う「企業再生支援機構」と、新たな成長産業を育成する産業革新機構の設立である。
前者は日本航空やウィルコムを引き受けて存在感をアピールしたが、後者は鳴かず飛ばずで、年収2000万円クラスの高給取りが、40人以上も遊んでいる印象だった。

【INCJ経費の検証】
投資のリターン(IPO、買収)は、最短3~5年、最長7~10年、最悪ゼロ(倒産)
キャピタリス1名の人件費2000万円(年収)X50名=10億円╱1年
10億X15年=150億円
*年収2000万円の社会保険料1ヵ月10万円X12=120万円(50名X120万円=6000万円)
これ以外には、所得税、住民税、諸経費(人の維持)に別経費がかかる。
この国策企業の経営(利益)は、15年後清算後どのくらいのリターンが、国と国民にあるだろうと素朴に疑問に感じる。

※関連記事:産業革新機構発足から考えるVB業界の問題点
http://ameblo.jp/otemachi-sec/entry-10317348978.html

※関連記事:超保守的ベンチャーファンド 産業革新機構への期待と失望
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100608-00000000-diamond-bus_all

※関連記事:産業革新機構 官の関与が過ぎている(東京新聞 社説)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2009072802000065.html

※関連記事:米グーグル、データセンターの電源に風力発電を利用
http://jp.reuters.com/article/technologyNews/idJPJAPAN-16374620100721




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