シリーズ3:日本(国)ハイテク産業への改革提言➁

過去の講演から予測を検証、そして未来を見る➀
今回は、筆者の独自分析視点(千里眼)での過去講演の「予言」を検証して見ましょう。
アナリストたるもの未来を読みあてることは、絶対条件。
市場予測や技術(アプリ)を読み外す事態がおかしなことである。
そして、虚業のアナリストと違い、戦略マーケッターは、必ず企業の軍師として必ず、「勝つ戦略と戦術」を策定し、実行しなければならない。

『様変わりする半導体市場 ~日本企業が推進するSoC戦略は正しいのか?

そして迫り来るリセッションにどう対処しなければならないのか?』
http://www.jasva.org/actionseminar2004.htm
※第29回 アクションセミナーレポートJASVA通信36号に掲載

第29回JASVAアクションセミナーが2004年4月15日18時~20時、神田明神会館にて開催され、アイサプライ・ジャパン(株)代表取締役豊崎禎久氏による講演が行われました。
演題は「様変わりする半導体市場~日本企業が推進するSoC戦略は正しいのか?そして迫り来るリセッションにどう対処しなければならないのか?」というかなり刺激的なものでした。
講演内容の概略は以下の通りです。

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アクションセミナーで講演する豊崎禎久氏

★2003年の世界半導体市場の状況
まず世界半導体市場での2003年の売上ランキングの紹介があり、前年より順位を上げたメーカーと下げたメーカーがあると指摘。ランキングを上げたところでは上位20社の中では松下、ソニー、シャープ等の自社内デジタル家電向け需要の多いメーカーが目に付く。

地域別の半導体市場規模は2002年から2003年にかけて日本市場が再び米国市場を抜いて、アジア・パシフィックに次いで世界第二の市場となった事が注目される。ちなみに2003年における地域別シェアはアジア・パシフィック39.9%、日本23.3%、米国20.1%、欧州16.7%である。
2003年のファンドリー企業のランキングでは1位のTSMCから6位のTIまで順位は変わらないが、新たに中国のSMICが7位にランクインしたのが注目される。

★半導体市場を牽引するもの
2004年にはデジタル家電、ネットワーキング/有線通信、無線通信、コンピュータ/周辺装置の全てのセグメント分野で成長が回復する。
2004年の世界市場でのデジタル家電の伸びは約6%、無線通信及びコンピュータ/周辺装置の伸びは約10%が予測されている。

同年のネットワーキング/有線通信分野が過去数年にわたるマイナス成長からプラス成長に転ずると予測され注目される。

デジタル家電ではデジタルフラットTVが好調でハイビジョン市場もようやく立ち上がった。
2004年4Qにおける液晶TVの世界市場での出荷台数は約275万台の水準になる。DVDプレーヤ、DVDレコーダー、セットトップボックス、デジタルスチルカメラ等の数量の伸びは二桁の好調が持続する。

自動車エレクトロニクスもしばらくの間8%前後の堅調な伸びが見込まれる。医療エレクトロニクスではヘルスケアサービスの需要が引き続き好調。
設備投資が製造部門とR&D部門で好調なため、これに乗じて産業エレクトロニクスが好調である。

また、防衛/航空宇宙産業エレクトロニクスがテロの横行などを背景に急上昇しているが、民間航空の回復は遅れている。

★迫り来るリセッション:最新の半導体市場予測
グローバルな半導体市場の成長率は2003年~2008年の平均で9.6%/年と予測。2004年は19.8%と高い伸びが期待されるが、2005年は13%にまで伸び率が低下する。
そして、2006年は次のリセッションが起こると予測され、伸び率はほぼフラットの1.7%を予測。
但し今のまま大規模設備投資を続けるとさらなる深い谷が待っていると警告。
製品別の半導体市場予測ではメモリ(DRAM,SRAM,フラッシュ)、マイクロ(MPU,MCU,DSP)、ロジックIC、アナログ、ディスクリートなどの製品群はすべて2004年に成長率のピークがきて2005年から伸びが鈍化すると予測(数値は省略)。
オプトは2003年が一番高い伸び(35%)で、2004年~2005年は伸びが急激に鈍化すると予測される。

★ASIC市場予測と日系半導体メーカーの問題
アイサプライでは新定義によるASIC市場予測を行っており、2003年の伸びの実績3.7%に対し、2004年は13%の伸びを予測。2005年には8.6%に低下しその後微減もしくは横這いと予測した。
※ガートナー時代に"SLI:System Level Integration"という造語が作ったのは、筆者である。
SoCより、本来ハードとソフトとシステムのインテグレーションという点では、SLIの言葉が適切であろう。

新定義ではDSP ASICs、Logic ASICs、Analog ASICsに分類され、2004年はASIC市場の構成比はLogic ASIC 65%、DSP ASIC18%、Analog ASIC17%となっている。

ASIC市場には標準製品の時代が到来し、ビジネスモデルが変化するが、日本企業は相変わらず「カスタムSoC 型ビジネス」を展開している。欧米企業あるいは韓国、台湾の企業は「ASSPSoC型ビジネス」へ移行している。

ASICの世界において巨額の投資をして稼げるアプリケーションは4つしかないが、そこに日系企業がカスタムソリューションを掲げて殺到している。このままでは多くの企業が立ち行かなくなり欧米企業やアジア企業にM&A される恐れがある。またMCU市場を捨ててSoCをやろうする動きがあるが、せっかくの高いシェアを捨てるのは問題である。

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豊崎氏の話では数年後には日本の半導体企業は殆ど消滅するように聞こえるが、との会場からの質問に対して、日本メーカーの利益の低さが指摘され利益を追求する経営システムが日本にはないとの指摘があった

※さて、”豊崎氏の話では数年後には日本の半導体企業は殆ど消滅するように聞こえるがについての答え合わせをしましょう。
この基調講演後、消滅した企業は?

ロームによるOKIセミコンダクターの買収。
ルネサステクノロジとNECエレクトロニクスの統合(NECエレクトロニクスの消滅)

旭化成エレクトロニクスによる東光の館山デバイス吸収。

今後は、三洋半導体、富士通セミコンダクター、セイコーエプソン(内部統合)などが業界再編に巻き込まれて行くことになる。

※三洋電機、米オン・セミコンダクター社と半導体事業の戦略的売買で合意
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=256490&lindID=1

ここに示す再編俯瞰図は、筆者が経済産業省幹部に相談を受け、国と日本半導体企業を正しき方向に導きだすためのプランをボランティアで絵に落とし込んだものである。
これがこそが日本が世界で勝つ戦うターゲット企業とセグメントを分けた再編案であるが、実像は勝つための再編にならないのが、世の常である。




※まさに、亡国ニッポン、戦略なき国家である。
これが、今のハイテク国家の日本の実態である。

日本メーカー同士が価格競争しシェア争いを繰り返している。何故欧米やアジアと戦わない?
今のように利益が少ない状態が続けば投資もできず競争力が低下するのは必至である。

豊崎氏はLSIロジック社に在籍していた時の経験から日本メーカーはとにかく安く売る、工場を埋めるために安く売る、価格をコントロールする機能が無いとも指摘した。
米系メーカーではマーケティングからエンジニアリングを経由して経営トップに情報が流れるシステムだが、日本は両者から経営トップに情報が流れ、且つ専門知識を持ったスタッフ陣がほとんど無きに等しく的確な経営判断が出来ないでいる。

短期的に見れば今はデジタル家電中心に需要が盛り上がっており日本メーカーが有利である。

この時期に将来を見据えた事業戦略を立てる事が肝要である。

▮EDSF 2005 with FPGA/PLD Design Conference  2005年1月27日-28日 パシフィコ横浜からの検証➁
『イベントレポートより』
http://www.eis-japan.com/event/index14.html

1月27日と28日の両日、Electronic Design and Solution Fair (EDSF) 2005 と第12回 FPGA/PLD Design Conferenceが、パシフィコ横浜で開催された。今年のこのイベントで気がついたことなどを例によってとりとめもなくリポートする。

▮基調講演の豊崎氏
開催初日の基調講演は、半導体調査会社、iSuppliの日本法人の代表、豊崎禎久氏による「FPGAの将来とストラクチャードASICビジネスのリスク」であった。
このイベントには、ザイリンクスとアルテラという2大FPGAベンダが出展していないが、3番手であるアクテルとラティスセミコンダクターの両社が出展していた。
また、ここ数年、LSIロジック、NEC、富士通の各社はこのイベントで特にストラクチャードASICのプロモーションに力を注いでいただけに、iSuppli、そして豊崎氏がFPGAとストラクチャードASICの将来性についてどのような見解を示すのかを注目して聴講した。

※この講演分析は筆者と調査会社のASICとアプリ予測とは異なるもので、調査会社はストラクチャードASICは成長するだろうという間違った見解で、企業PRパートを除いて、あるものほぼ独自見解、データ(公、アナリスト時代からの蓄積個人データ)

WEB上の参考資料:「FPGAの将来とストラクチャードASICビジネスのリスク」
http://www.edsfair.com/2005/image_pdf/keynote.pdf


~新たなコア・シリコン時代の到来~
豊崎氏は2005年の半導体市場をドルベースで4.7%の低成長と予測した上で、FPGAとストラクチャードASICの将来性についての見解を述べた。
豊崎氏は「FPGAは消費電力がネックとなって対象となるアプリケーションに一定の制限があるものの、しばらくは安定した成長が期待できる。」と述べた一方で、「プロセスの微細化に伴うNREの高騰、製品ライフサイクルと開発期間の短縮化などの影響でASICの設計件数は減少し、市場規模自体が低成長になっている」と指摘した。
そして同氏は、「半導体の主要なアプリケーションである、Digital TVや携帯電話ではすでに主役がASICからASSPに交替しており、2005年にDigital TVでは90%が、また携帯電話でも61%がASSPで構成されるようになる」と予測した。
その上で、「ストラクチャードASICは、セルベースASICの市場の一部は置き換えるが、今後大きな成長は見込めない」という見解を述べた。

これは、このイベントに出展している前記のストラクチャードASICベンダやそれらをサポートしているEDAツール・ベンダにとっては、ちょっと元気を喪失しかねない見解と予測であった。
このようなイベントの展示会の基調講演では、出展社や来場者を元気にするスピーチが行われるのが通例なだけに、この講演はちょっと予想外でもあった。

※成長しない無駄な投資は日本半導体企業にはマイナスなり、筆者の警告を当日のイベント来場者に伝えたかったのである。(筆者は、LSIロジック時代、ゲートアレイのパイオニア企業に「グローバル市場撤退戦略と実行をさせたのである。何故? プレイステーション開発もため0.5ミクロン世代セルベースIC(実力は0.35世代を投入)に開発リソースを集約し、日本企業に打ち勝つためのものであった。その結果は、LSIロジックを弱点であったセルべースICのリーディングカンパニーとし、SoC開発のインフラ準備とデジタル民生に要求されるコスト競争力を身に付けたのである。それからの躍進ぶりは、過去を知る人は分かるだろう。

※では、この件の答え合わせをしましょう。
ストラクチャードASIC市場は成長せず、各社撤退したのである。

しかし、一方で、豊崎氏の見解を打ち消す動きもあった。
各社のストラクチャードASICの合成をサポートしているシンプリシティ社が、この基調講演が行われている時間帯に主要なメディアを集めて富士通、NECエレクトロニクス、富士通の各社と共同で記者会見を行い、「ストラクチャードASICの設計事例が確実に増加している」と発表していた。

※よって、筆者の戦略が正しかった事が証明されたことになろう。


果たして、ストラクチャードASICの将来性はどっちの方向なのであろうか? 
製品の関係者だけでなく、この行方は大いに気になるところだ。

※読者の皆さんの評価はどうでしょうか?
未来を語るのは自由、しかし「検証」という過程を経て、実績をきちんと評価することが、調査会社任せにする事業計画がいかに危険であるかお分かりになるだろう。

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